看護師のピンチヒッター引きつぎて老いの命の日々を見守る
癌を病む媼支へて歩み寄るホームにうすき陽の入る
わが唄ふ「夕焼け小焼け」が広がりて施設のホールに合唱となる
幾たびも子の名を叫び伸ばす手を包めば骨ばる薄きてのひら
七夕の願いを書きし短冊に歩きたいとの文字が揺れをり
香ゆらぐ老人ホームの盆だなの前に額づき手を合はす女男
ひたすらに心臓マッサージを続けつつ救急車待つ刻の長かり
明日もまたきつと来てねの声を背に帰り来るなり寒風のなか
明日知れぬ命と思へど大丈夫と一人ひとりの肩に手を置く
百歳のおうな笑むが逝きにけり自分で漕ぎし車椅子のなか
手をのべてあなたに逢えてよかつたと言ひし媼の翌日在さず